意外と違う?NPE、PAE、パテントトロールの意味を解説

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本記事では、弁理士・弁護士や大学の研究者など知的財産に関わる専門家の方々を対象に、「NPE(Non-Practicing Entity)」「PAE(Patent Assertion Entity)」「パテントトロール」という3つの用語の意味とそれぞれの違いについて包括的に解説いたします。

目次

パテントトロールとは何か

「パテントトロール」とは、自らは製品を製造せず特許権を他社への請求手段とし、ライセンス料や巨額の賠償金の取得を狙う企業や個人に対して批判的な意味で用いられる呼称です【3】。明確な法的定義は定まっていませんが、一般には特許権の濫用によってイノベーションを阻害する者を指すと考えられています【1】。この言葉は1991年に米国Intel社のピーター・デットキン氏(当時同社法務担当顧問弁護士)が、自ら発明を実施せず特許権によって他社を訴える企業を指して使ったのが始まりとされています【2】。英語では「Patent Extortionist(特許搾取者)」「Patent Pirate(特許海賊)」など複数の呼び名があり【2】、いずれも特許権を乱用する悪質な存在であることを示す蔑称です。

パテントトロールと呼ばれる企業の多くは、自ら研究開発や製品化を行うことなく、他社から取得した特許を武器に製造業など実業を営む企業を相手取って侵害訴訟を提起します。そのため、高額な訴訟コストや差止命令のリスクを背景に和解金を得るビジネスモデルとなっており、その活動が産業界に余計な負担と停滞をもたらすとして問題視されています【1】。

NPE(非実施主体)とパテントトロールの違い

NPE(Non-Practicing Entity、非実施主体)とは、自らは特許発明を実施(製品化)しない特許権者全般を指す用語です【3】。大学や公的研究機関、発明家個人、特許管理会社、さらには防衛的特許基金(Defensive Patent Aggregator)なども広く含まれます【3】。NPEに属する主体は、自社で製品やサービスを提供する代わりに特許ライセンス収入や特許売却益などで収益を得ますが、その目的や姿勢は様々です。例えば大学や公的機関であれば、特許の活用によって得た収入を研究開発に再投資し、新たな技術の創出につなげています。また特許管理会社でも、発明者から特許を預かり適切にライセンスすることで発明者に利益を還元するビジネスモデルの企業も存在します。

このようにNPEというカテゴリには多様な主体が含まれ、そのすべてが悪質とは限りません。単に自社で特許を実施していないだけの特許権者を一律に「トロール」と呼ぶべきではないとの指摘もあります【5】。実際、NPEの中には特許を正当に管理・活用してイノベーションの促進に寄与しているケースも多く、特許権者が製品を作っていないこと自体は直ちに非難されるべき行為ではありません。パテントトロールという呼称は本来、その中でも特許権の不当な行使によって他社から利益を巻き上げるような悪質な例に限定して用いるべきものだとされています【5】。

PAE(特許主張主体)とパテントトロールの違い

PAE(Patent Assertion Entity、特許主張主体)とは、特許権の行使(アサーション)を収益化の中心に据えた企業を指す用語です。特許を自ら実施して製品製造・販売を行うのではなく、主に特許権を取得して被疑侵害者に対し権利主張(ライセンス要求や訴訟提起)することで収益を得るビジネスモデルの企業と定義されています【4】。PAEは多くの場合、特許権を自ら創出(発明)するのではなく第三者から買い集め、それらを侵害していると主張する企業に対して法的措置を取ることに専念します【4】。言い換えれば、PAEは「特許を武器に収益化を図る専門業者」とも表現でき、実態的にはパテントトロールと重なる部分が大きい概念です。

NPEという用語が含んでいた大学や研究機関、防衛的な特許保有主体などを除外し、特許の権利行使で収益を上げることに特化したカテゴリーとしてPAEが提唱されました【3】。米国の政府機関や公的報告書でも、否定的な意味合いの強い「トロール」という呼び名を避け、このPAEという中立的な表現が用いられています【4】。例えば米連邦取引委員会(FTC)の2016年の報告書でも、NPEの中でも主に特許権行使を業とする企業をPAEと定義し、活動実態を詳しく分析しています【4】。

2010年代前半には、PAEによる特許訴訟の急増が社会問題化しました。ホワイトハウスの報告によれば、米国における特許侵害訴訟のうちPAE(いわゆるトロール)によるものの比率は2011年頃には3割弱でしたが、わずか数年で6割超にまで達したとされています【4】。こうした状況を受け、米国ではPAEによる過剰な権利行使を抑制する法改正や判例の整備が進められてきました(後述)。

総じて、パテントトロールとはPAEに属する企業のうち特に権利行使が攻撃的・濫用的なものを指すと考えられます【5】。逆に言えば、全てのPAEがパテントトロールと非難されるわけではない点にも留意が必要です。特許紛争の解決を専門に行うPAEの中には、特許権者に正当な代償をもたらすだけでなく、中小企業の休眠特許を活用して市場機会を創出する例など肯定的に評価し得る活動も一部にはあると指摘されています。しかしながら一般的には、PAEという言葉自体が「特許専業の権利行使主体」というニュートラルな定義であるのに対し、「パテントトロール」はそうした主体の中でも悪質なものを痛烈に批判する呼称である、と理解すればよいでしょう。

パテントトロール問題の現状と対応

パテントトロール(悪質なPAE)の台頭により、2000年代以降、米国を中心に特許係争の構図が大きく変化しました。自社では製品を作らない企業が特許を大量に買い集め、製造業など実業企業を相手取って訴訟を乱発する事態となり、特許制度本来の目的である発明の保護と産業発展のバランスが揺らいだと指摘されます。特にIT・通信分野では、特許訴訟件数の急増とそれに伴う莫大な訴訟コストが企業のイノベーション投資を圧迫するとの懸念が高まりました。これを受け、米国では2011年の米国特許法改正(America Invents Act)による特許レビュー制度の導入や、2017年の判例(TC Heartland事件)による管轄地制限など、トロール訴訟の横行を防ぐための様々な施策が講じられています。2006年のeBay事件判決以降、特許侵害訴訟で直ちに差止め命令(製品の販売差止)を得ることも難しくなり、いわゆる「差止めによる揺さぶり」戦術の効力も弱まりました。その結果、近年では米国におけるNPE関連訴訟件数はピーク時より減少傾向にあるとのデータもあります。

一方で、パテントトロールは形を変え活動を続けています。訴訟リスクの低い中小企業やスタートアップを狙った警告状(ライセンス要求)の送りつけや、特許の管轄が及ばない海外拠点での間接的な交渉など、訴訟以外の手段も含め巧妙化しています。また米国外では、特に特許訴訟の活発なドイツや新興市場の中国などでNPE訴訟の増加が報告されており【1】、トロールの活動はグローバルに広がりを見せています。

日本に目を転じると、幸いなことに現在までパテントトロールによる顕著な被害事例は多くありません。日本企業がパテントトロールの標的になるのは主に米国など海外での訴訟であり、日本国内でNPEが権利行使を行うケースは限定的とされています【2】。その背景として、日本では特許審査が適切に行われており権利範囲が明確な特許しか成立しにくいこと、訴訟を起こしても米国ほど高額の損害賠償が認められないこと、訴訟手続が迅速で濫訴に不向きなことなど、制度面・市場面でトロールにとって魅力的な環境ではないとの指摘があります。もっとも、今後海外のNPEが日本企業や国内市場を狙って訴訟を提起する可能性もゼロではなく、予断を許しません【2】。実際、政府の知的財産戦略本部でも2018年にパテントトロール対策のワーキンググループを立ち上げ、その実態調査や制度上の対応策の検討を進めています【1】。

パテントトロール問題への民間の対応策としては、自社の特許ポートフォリオを強化して牽制力を高めたり、企業間で特許を持ち寄ってクロスライセンス網や防衛的な特許基金(パテントプール)を構築したりする動きが挙げられます【2】。大企業を中心に、侵攻してくるトロールに対抗する「特許連合」のような共同防衛策も模索されています【2】。また、ライセンス交渉の専門家や顧問弁護士を活用し、安易に和解金を支払わず無効審判請求などで徹底抗戦する姿勢を示すことも、トロール抑止につながると言われます。重要なのは、正当な特許権者の利益を守りつつ、権利の濫用的な行為だけを抑制するバランスの取れた制度運用です【5】。特許制度への信頼を損なわないよう留意しながら、引き続き国内外のNPE動向に注意を払い、適切に対処していくことが求められています。

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参考文献

  1. 一色太郎「パテント・トロールとは何か──パテント・トロールと特許制度の関係およびトロール呼称の弊害──」(日本知的財産協会『知財管理』69巻5号, 2019年) https://www.isshiki-law.com/wp-content/uploads/2024/08/chizaikanri20190510.pdf

2. 内閣官房 知的財産戦略推進事務局「パテント・トロール対策等WG報告書(概要)」(2018年)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/sangyou/dai4/siryou3-4.pdf

3. 西口博之「我が国企業のパテント・トロール対応策―最近の特許連合に関連して―」(日本弁理士会『パテント』68巻2号, 2015年) https://jpaa-patent.info/patents_files_old/201502/jpaapatent201502_086-092.pdf

4. NGB株式会社「【トロール動向ウォッチ】トップ11社提訴件数推移」(知財ニュース, 2013年6月19日)https://www.ngb.co.jp/resource/news/2896/

5. 「パテントトロール最新動向―FTC Patent Assertion Entity Activity(FTC報告書)解説―」(日本弁理士会『パテント』70巻6号, 2017年) https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/2827

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